会長挨拶
人的交流、研究機会の拡大、研究による社会貢献――そのための基盤を作りたい
2025年8月26日
会長 町田 祥弘
日本会計研究学会(当学会)は、会員数1,586名(2025年3月31日現在。院生会員含む)を擁する会計領域では日本で最大の学会である。
当学会では、毎夏に研究大会(全国大会)を開催するとともに、各地域部会での活動を行っている。2025年は、研究大会は8月25日から福岡大学において開催され、コロナ禍の影響等により長らくオンライン開催であった関東部会及び関西部会も対面開催を再開したところである(関東部会(3月29日、於 成城大学)及び関西部会(3月2日、於 神戸学院大学))。学会は研究報告を行って研鑽を図る場であると同時に、人に会い、交流し、新たな研究の打合せをしたり、親睦を深めたりすることも重要な役割であると考えている。
当学会では、会計に関する研究論文2篇を入会申請要件としてきたことから、かなりの程度「研究者」のみによって構成されている学会となっている。
しかしながら、研究者だけからなる学会活動には限界もある。当学会では、特別委員会やスタディ・グループという共同研究を学会として毎年組成しているが、それらのメンバーが研究者だけということになると議論や検討も広がりが乏しくなってしまうかもしれない。また、研究を実施するに際しても、監査法人や税理士法人、あるいは企業等に対して調査を行うことがあるが、その際に、調査対象として調査への協力を依頼するだけでなく、調査の立案や調査結果の分析等の局面において様々な助言やコメントを得る必要があるかもしれない。研究活動においても、実務界の協力、いわば産学連携は欠くことができない。
さらに、私たち研究者は、同時に大学等の高等教育機関の「教員」でもある。将来の会計専門職や専門職でなくとも会計リテラシーを有する企業人、すなわち次世代の会計人材を育てていくことは、私たちの役割である。現在、多くの大学では、簿記や会計が一定の知識の積み重ねを必要とする分野であること等もあって、学生の会計離れが指摘されている。そうでなくとも、わが国において少子高齢化が急速に進みつつある中で、次世代の会計人材を育成していくことは喫緊の課題であるといえる。そうした次世代の教育や育成は、単に大学等の「教育」現場や監査法人等の「実務」の現場がそれぞれに取り組んで解決できる問題ではないといえよう。
そうした状況に鑑みて、当学会では、2023年に会則を改正し、「次世代会計研究教育会議」を正式な当学会の機関として設置したのである。さらに、同じく研究機会の拡大を念頭に置いて、2025年の研究大会では、前年度からの懸案であった「準会員」制度について、公認会計士及び税理士の有資格者で5年以上の実務経験を有する方に限って新たな会員カテゴリーを創設したのである。
上記の産学連携の成果の1つとして、2025年度に開始した「研究機会プロジェクト」を挙げることができる。日本監査役協会、日本内部監査協会及び日本内部監査研究所、並びに、日本証券アナリスト協会の3つの機関・団体等から、データや所属メンバーに対するアクセスの提供といった「研究機会」を提供していただき、当学会において公募を行い、意欲ある研究者グループに応募していただいた。2025年7月には2件の研究計画が採択され、研究が開始されようとしている。
その他、会長としての任期3年間において取り組みたい案件については、2024年12月14日の定例理事会でご提案し、ご承認いただいた。その進捗状況を含めて、次のリンク先において、随時、ご報告していきたい。
現在、サステナビリティ情報の開示やAIの進展の他、リース会計や表示に関する会計基準等の改定、内部統制報告制度の改訂、監査法人の品質管理や日本公認会計士協会による上場会社等監査人登録制度を通じた自主規制の拡充、東証における市場区部の見直しや「資本コストや株価を意識した経営」の検討、公益法人等の制度改革、電子帳簿保存法適用・・・等々、会計や監査、資本市場や税務を取り巻く環境は、大きな変革期にあるといえる。
そうした環境変化は、私たち研究者にとっては、自らの研究領域の拡大をもたらす一方、社会から私たちに対して、独立的な立場から(必ずしもデータを用いた実証的研究という意味に限らず)evidenceを基にした研究を進め、その成果を制度や社会にフィードバックすることを期待されるであろう。
私たちはそれに是非応えていきたいと考えているし、それに対応する有為な研究者は数多く存在する。当学会としては、そうした研究を支える基盤でありたいと願っているし、私自身もこれからの3年間の任期をその構築に投じたいと考えている。